説明
この作品は、第四十七回新潮新人賞に応募した作品です。あきらかに、賞の大きさに対して力不足の小品ですが、あとから自分で読み返してみて、却って好きになったものでもあります。
精神障碍者の乾武は、病院へ行く途中にある峠の南露寺に時折参拝していたのですが、その寺に住む十條友美に出逢い、次第に恋に落ちていく。そこへ、南露寺の住職、円信が重病に罹って逝去する。寺院で通夜の日の昼間に、禁じられたかのような武と友美の恋は、寺院と共に燃え上がるが……。
題名の「仏化の劫火」という言葉は、一見造語で構成されているように思われるかもしれませんが、「仏化」というのは歴とした仏教用語であります。発菩提心するときに、その人の環境全てが仏事を為して、世界が仏と化することを言います。つまりは、世界の終焉たる劫火により、一切の有情無情すべからくが、成仏するという壮大な題名です。
この小説の中で、「仏化」とは何であるのか、「発菩提心」でありうるのか、というのは、非常に難しい線ではありますが、少なくとも円信住職の南露寺を道連れにした逝去は、「土地草木瓦礫みな仏事をなす」状況の具現化として感じられて、武や友美をして仏化させたのではないかと、そのように感じさせるラストに仕上げたつもりです。
しかし、題名ほど難解なストーリーではないので、仏教に詳しい人はもちろん、詳しくない人達にも是非御一読戴きたい一冊です。
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