説明
空華の号数も二桁になった第二冊目です。前号は、特集を組んで対談などを掲載しましたが、今回は普通に淡々と文学作品だけ掲載しました。
まず、はじめに、そう前置きしながら、初めての短歌を収載しました。これは、同人代表の大坪氏が、最近、歌人の黒瀬珂瀾氏の主催による海市歌会にて、短歌を詠み始めた影響であり、また大坪氏は丁度、角田光代さんの訳による「源氏物語」を読んで、短歌を読む時代の風雅にあこがれもしたため、今回の空華号に、これを記載することとしたのです。かならずしも、上手な短歌とは言いがたいでしょうが、文学が芸術である以上、ことの優劣を競うのはあまり、正しいことのようには思われません。
さて、その冒頭から、次は藍崎万里子さんの「薄紅色の花びらの舞う」です。これは、藍崎さんが大坪氏の親友の、S・Nさんに捧げた作品で、同じS・Nさんに、大坪氏も「好き病み」を捧げております。二つとも元ネタは同じなのですが、かなり異なった小説になっております。
「薄紅色の花びらの舞う」のほうは、反政府的主張も感じられる悲恋のストーリーです。主人公の五反田君は吉村さんという可憐な女性を電車で見掛けますが、その女の子との恋愛の背景に流れる、別のどす黒い流れがある。二人はどうなるのか……? 最後まで飽きさせないストーリーです。
次は、大坪命樹氏の「仏祖円寂」です。これは、第八号掲載の「江面月明」の続編のような小説で、慧能の最期を、弟子との遣り取りの中に書いた話です。地味ですが、大坪氏の考える死生観や仏性観がよく出ていて、ただの伝記とはことなり、かなりの創作の入ったものとなっております。「禅僧小話集」の収載の作品群と同様、30枚程度の短篇です。
三番目は、冬月氏の「伝説教師X最終話『X先生の正体』」です。X先生は、かなり奇想天外なキャラクターですが、その荒唐無稽さの種明かしがなされる作品です。今までの「伝説教師X」を読んできた人なら、そのX先生の苦悩が、心に染みて判ると思います。ただのコミック小説に堕させないこの章は、「伝説教師X」の最終話には必要不可欠なものだろうと思われます。
四番目は、杜埜不月氏の「日常。」です。なんともない順調な大学生活を送っていた美里だったが、おもわぬ事故が人生を一転させてしまう……。ここで語られる「日常」とは、一体なにを示しているのか? 題名の意味を考えさせるかのように、リフレインされる「日常」という単語。その言葉に、杜埜氏はどんな思いを込めたのでしょうか? とても考えさせられる作品です。
最後は、例によって、「そらばなし書評」です。今回は、大坪命樹氏が「ビリジアン」柴崎友香著の感想を、藍崎万里子さんが「ブエノスアイレス午前零時」藤沢周著の感想を、それぞれ書きました。読書の参考にして戴けると嬉しいです。
このような第一一号になりました。
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